日本はケータイ(利用)先進国ではなくなったかもしれない
2006.08.10 02:07 JST - COLUMN - OUTPUT - keitai standard (keitai)
取材と休暇をかねて、アメリカに旅行してきた。インディアナポリス、シカゴ、ニューヨーク、ナイアガラとツアーしてきたんだけれども、ケータイに関して、とても気になることがあった。電車の中でのビジネスパーソン、自宅にいるティーネイジャー、街中を行き交う人たち、空港の旅行客、観光地での行動など、ついついケータイを観察するクセを発揮してしまったけれど、今回は割とショックを受けた。日本はケータイを利用するライフスタイルにおいて、アメリカに突き放されてしまったのではないか、ということである。
・CNET Japan Blog ケータイ時代のスタンダード: 日本はケータイ(利用)先進国ではなくなったかもしれない
・CNET Japan Blog ケータイ時代のスタンダード: 「SidekickでPCいらず」 - こどもとケータイ特集
ここ5〜6年、アメリカには東海岸を中心に毎年必ず訪れている。その折に感じていたことは、ケータイに関して、やはり日本の方が進んでいるなという「確認」とも言えるような印象だった。電車の中でケータイが鳴ってもその着信音(リングトーン)はクラシカルな電子音だし、端末はモノクロのモノを使っている人が多かったり、カメラ付きはマレだったり。メールよりは通話ばかりしている電話するアメリカのケータイ事情。
きちんとした調査や新製品の発表具合では日本に引けをとらないラインアップがなされているようだが、生活に密着したレベルで観察していると、日本のケータイ事情とはかなり異なり、遅れているな、感じずにはいられなかった。一方で家庭やオフィスで1日中交わされるe-mailやインスタントメッセージング(IM)が、日本のケータイメールと同じくらい交わされていたようである。このネットの存在は、後にケータイに戻ってくる。
この「遅れているな」という生活感覚は、去年までの事情だったのかもしれない。今年アメリカを訪ねてみると、全くケータイ事情が様変わりしていたのだ。電車の中で鳴る着信音は日本で言うところの着うた(Real Ring Toneなんて言われていたりします)ばかりだし、通話の比率は相変わらず高いけれど、ビジネスパーソンはBlackBerry端末で、ワカモノはSideKick(これはT-Mobileから出ている端末の名前なんだけれども、別のエントリーで詳しく触れます)と呼ばれるフルキーボードを搭載した端末でひっきりなしにメールを打つ。
ナイアガラの滝のような観光地では、デジタルカメラで景色の写真を撮り、カメラ付きケータイでは人を入れた記念写真(証拠写真になるのかもしれません)をもう1枚撮影する。あるいは滝の様子をケータイのムービーで納めている様子も見られた。そしてそれにメッセージをつけてすぐにe-mailで誰かに送ってみたり。そういえばNokiaのLifeBlogが各種Blogサービスとの連携ができたり、FlickrやYouTubeへのアップロードだってできる。
そういう光景にショックを受けたのだ。今まで別々に動いてきたようなケータイとインターネットの世界が、満を持してというべきか、この1年で生活レベルにおいて急激に融合を進めているように見えてきたのだ。「もはや日本はケータイ先進国ではない」そういう衝撃を突きつけられた格好だ。ニュースでは伝わってきた新しいサービスが、2005年から2006年で一気に広がったところに、何か日本のサービスの普及と違う雰囲気を感じたのだ。
冷静に考えればコンテンツビジネスやおサイフケータイなどの生活ツールとしてのケータイのソリューションは、やはり日本の方が進んでいる。しかし活発に変化しものすごいスピードで新しいモノが生み出されているアメリカのインターネットサービス群から、Web2.0の風をダイレクトに受けているのがアメリカのケータイという姿を考えると、日本のケータイのキャリア主導にもっさりとしている印象を感じざるを得ない。
日本とアメリカのどちらが進んでいるか、ということを決めたいわけではないし、どちらが良いかという判断をしたいわけではない。ただアメリカのケータイ事情は、去年のそれに比べて劇的な変化が自然に定着している、そのパワフルさが印象的だったのだ。まだ表面的な話でしかないけれど、少なくとも今まであまり興味を持てなかったアメリカのケータイに、今は興味津々なのだ。
「2006年からは、日本のケータイ事情はアメリカよりも決して進んでいない」そんな危機感にも近い衝撃を受けたアメリカ旅行のうち、1週間近くお世話になった家に今年の6月に高校を卒業した女の子がいる(アメリカでは高校を卒業したら女性、と言うべきですね)。2002年頃からほぼ毎年会っている彼女から、こっそりとアメリカの東海岸のティーネイジャーのコミュニケーションについて教わっているんだけれど、今年は決定的に違っていた。
2005年までは実際あまり変化がなかった。使っているコンピュータがノートPCから省スペースデスクトップに変わっていたり、AOLの画面ばかりが占有していたかと思ったら、いつの間にかGoogleの画面が出るようになっていたりと、その時々のトレンドがかなり反映されていて話を聞くのが楽しかった。ただ今までは、ほぼ全てがコンピュータ経由のインターネットの話であった。
学校から帰ってきたら真っ先にコンピュータの前に向かい、AIM(AOL Instant Messenger。日本ではMSN Messengerの方がメジャーですね)にログインして、同じように学校から帰ってきてログインする友達とコミュニケーションを取り始める。eBayでいらなくなったモノを売ったり、プラチナチケットをゲットしたり。ログインしている間は度々「You've Got A Mail!」というあの有名なメール着信の音が聞こえてきたのも印象的だった。
そんなパソコンでネットを使いこなす彼女だったが、今年訪ねてみると、パソコンの前に座っているところをほとんど見なくなった。だからといってメールやチャットやeBayを使わなくなってしまったのか?そんなことはなかった。ただ、これらのコミュニケーションやサービスを使うツールが変わったのだ。そのツールこそ、Sidekick 3であった。
Sidekickと言えば、パリス・ヒルトンである。2005年の2月に、パリス・ヒルトンがこの携帯端末に保存していた情報がハッキングに遭い、他のセレブたちの個人情報まで公開されてしまうと言う事件があったのを覚えているだろうか(CNET Japan記事「P・ヒルトン、携帯端末の登録情報がネットに流出--友人のエミネムも巻き添えに」)。こんな災難がありながら、懲りないと言うべきか、パリス・ヒルトンは2006年7月10日にリリースされたSidekick 3のお披露目パーティーにも、スワロフスキーを鏤めたセレブ仕様のSidekick 3を持って登場している。プロモーションも効果があり、このSidekickシリーズはティーネイジャーの間で爆発的な支持を得ているそうだ。日本で例えるなら、あゆ(浜崎あゆみさん)やエビちゃん(蛯原友里さん)がウィルコムのスマートフォン、W-ZERO3 [es]を持ってパーティーに登場するのと同じ感覚だろう。ちなみにW-ZERO3 [es]も、Sidekick 3と同じシャープ製である。
さてSidekick 3とは、T-Mobileがリリースしたシャープ製のスマートフォンである。130mm×59mmのサイズ、21.8mmの厚さ、重さ約190gのボディに240×160ピクセルのディスプレイを搭載し、トラックボール型のポインティングデバイスも備えるGSM/GPRS/EDGEに対応した端末だ。Bluetooth、LEDライト付き1.3Mピクセルカメラ、最大2GBのminiSDカードに対応するという仕様だ。ボディのギミックがクールで、閉じた状態から液晶の部分をスライドさせると、ディスプレイ部が端末の上端を軸にぐるりと回転し、下からフルキーボードが出てくる。ちょうどPSPと同じような持ち方で、フルキーボードとトラックボールを駆使して操作する格好だ。
さて、高校を卒業した彼女の話に戻ろう。彼女はこの端末を使って、メール、チャット、ウェブといったインターネットのコミュニケーションやサービスを使いこなす。今までは自分の部屋にこもりきりだったが、この端末を握りしめてリビングにいる時間も長くなった。またクルマでどこかに行くときでも、コミュニケーションを逃さないし、絶え間なくキーボードをスライドさせて使っている様子は、日本の女子高生の放課後のケータイメールが飛び交う様子に似ている。
しかし決定的に違う点がある。インターネットの環境でそれが行われている点だ。相手は同じようなSidekickのユーザーか、パソコンのユーザー。メールサービスも、ウェブのサービスも、チャットも全てパソコンからアクセスするインターネットと同じ環境を使っているのだ。つまりWeb 2.0の流れが、Sidekickによって、一気にケータイの世界に流れ込んできたことになる。メールに貼り付けら得た住所からGoogle Mapsで地図を検索して、見つけた地図のURLを貼り付けてまたメールで送り返す、そんな作業が当たり前なのだ。
決して日本のケータイのウェブが不便だというわけではない。ユニークなサービスもたくさんある。しかし最新のサービスがいち早く使えるパソコン経由のインターネットの方が、新しモノ好きのワカモノにとっては魅力があるし、何よりそのサービスの数の充実度は圧倒的だ。アメリカのワカモノは、通信料だけで、これらの新しい、クリエイティブで変化の早いサービスをケータイからいつでも何処でもアクセスできるのだ。
そう思った瞬間、なんだかケータイウェブしか使えない我々日本のケータイネットサービスの状況が、アメリカに一気に突き放された、と言う感覚を覚えたのである。ならばW-ZERO3 [es]のようなスマートフォンが日本のワカモノの間に普及すればいいのか? もちろんその通りだと思うが、それだけでは足りない。
やはり日常のコミュニケーションに関わる部分なので、ネットで買わされるコミュニケーションの土台、プラットホームが必要だ。アメリカの場合、メールやチャットをパッケージ化していたAOLだったのかもしれないし、現在の日本で言えば、mixiやGREEといったソーシャルネットワーキングサービスがそれに当たると考えられる。
最後にもう1つ、彼女がPCからツールをSidekick 3に変えた後に起きた変化について1つ触れておこうと思う。今までPCばかり使っていて、ケータイは一応持っていたが、ほとんど使わなかった。しかしSidekick 3でネットコミュニケーションをすませるようになってから、逆にケータイの音声通話を使うようになったという。文字だけのコミュニケーションを音声通話付きの端末で交わすようになったら、通話が増えたというから、利用する端末の変化というのは面白い。
もし日本のワカモノにW-ZERO3 [es]が爆発的に普及したら、今まで通話料を気にして音声通話をしてこなかったワカモノも、ウィルコム定額で通話する時間が増えるだろうか。ケータイの使われ方やカルチャーは、ワカモノのコミュニケーションへの欲求、キャリアが提供する端末、サービス、そして大きな要素として通話料などの変数が密接に関わり合いながら変化する。僕はこの魅力にとりつかれているのであって、だからこそこれら変数の変化が大きく出やすい子どもやワカモノのケータイ事情を、これからも追いかけたいと思う。
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松 村 太 郎