REVIEW
表現力を刺激する、新しいオフィススイート - Apple iWork '08
by TARO MATSUMURA - 2007.10.16 09:55
Appleが放つオフィススイートの中身
Appleはリリース以降、iWorkを毎年アップデートをかけてきた。時期が伸び、バージョンコードがリリースより翌年の「08」になってしまったが、今回のバージョンアップはiWorkシリーズにとって重要な意味を持つことになる。
これまでiWorkには、プレゼンテーションソフトであるKeynote、ページレイアウトソフトであるPagesが含まれていた。もちろんこれらの2つのソフトとも洗練度を増している。
しかし今回のバージョンアップで最も注目すべき点は、新たなソフト、Numbersが追加されたことだ。Numbersは「普通の人のための表計算ソフト」とApple CEOスティーブ・ジョブズ氏が評しており、これまでMicrosoft Offceのスイートに含まれるExcelとは一線を画す。もしかしたら、これまでのMac上でのExcel使いにはちょっととっかかりが面倒かも知れない。後ほど詳しく述べていく。
Mac版のMicrosoft Officeのリリースが2008年1月に延期されている。Intel Macにネイティブで対応し、価格も1万円弱という安さに設定されているiWorkは、これを使ったことがないユーザーからすれば、「Microsoft Officeのシェアを奪うモノになるのではないか?」と思われるかも知れない。しかし、オフィス・スイートと言っても、全く違うモノであることは、既存ユーザーはもちろんのこと、iWorkをちょっと使ってみれば分かることだ。
新顔「Numbers」の普通の人の表計算ソフトとは?
まずはiWorkに加わった新顔である表計算ソフトNumbersからだ。
現在Macでビジネス向け表計算ソフトを使っていて、Numbersが完全なExcelの代替ソフトとして利用できるのではないか? と考えているユーザーは、その夢を捨てた方が良い。例えばNumbersでは、Excelのようなマクロを使うことは出来ない。スプレッドシート上でのプログラミングなど、Numbersには存在しないのだ。
またNumbersについて、テンプレートによっては「スプレッドシート」とすら呼べない。セルがスプレッドしていないのだ。Excelでは、ほぼ無限に、セルが続いている。そのフィールドの上に表を組んだり、タブでシートを切り替えながらファイルを作るという作業のスタイルだ。これはスプレッドシートというヴァーチャルなエリアに自分で秩序を作っていくことになる。
一方のNumbersでは、シートとは紙1枚分のことを指す。そのシートの上に、自分で表を配置したり、文字や画像を配置したり、グラフを作成したりしながら、ページを増やしていく。つまり、Excelのようなヴァーチャルなエリアではなく、紙というリアルなエリアの上に情報を展開していく、という使い勝手になる。どちらかというと、これまでのPagesにも見られたような、ページをレイアウトしていく趣向が強く出ている。
マクロは使えないものの、関数は揃っている。記述方法は「関数(セル:セル)」というルールだが、関数については、合計は「SUM」、平均が「AVERAGE」といったように、ほぼほぼ英単語で意味が推測しやすい単語が使われており、関数入力画面についても、関数の意味や使い方を一覧することが出来てわかりやすくなっている。
特に、普段よく使われる関数である合計、平均、最大値、最小値、カウントの5種類は、マウスで表の範囲を指定すると、その計算結果が必ず画面の左下に表示される。表として関数を組むまでもなく、ちょっと合計が知りたい場合などに便利だ。そしてその計算結果をセルにドラッグすれば、そこに関数が組まれる。これは非常に素早い表作成に寄与する。
またセルには、ステッパーとスライダという2つの真新しい書式が用意されており、これを選ぶとセルの数字をマウスで増減させることが出来る。ステッパーの場合は上向きと下向きの三角がセルの脇に表示され、これをクリックする毎に値が指定した分ずつ増減する。スライダは左右で値を増減できる。これはNumbersの使い勝手として、書類を作成するだけでなく、データを検討したり、イベントなどでリアルタイムに情報を更新しながら全体を把握することも想定されていることを表している。
グラフ作成や表ごとの関連づけなども、マウス操作で簡単に行うことが出来る。多少使い勝手が変わるが、Excelなど他の表計算ソフトと同じようにすぐに使い始めることが出来るだろう。 さらに、Macのアドレスブックのカードをドラッグすると、名前や電話番号などを自動的にリストに追加していくことも可能だ。ステッパーやスライダとともに、マウスで楽しく操作できる、カジュアルな表計算ソフトの一面を魅せてくれる。
最後に、データの互換性について。Excelからの読み込みは、ほとんどの書類で問題なく可能だった。Excel上で作成されたシートは、そのままNumbers上のシートとして解釈される。ただしマクロは存在していないので、利用することは出来ない。
またNumbersからExcelに書き出す場合は、Numbers上の1枚のシートに配置されている複数の表やグラフは、Excelに書き出すと1つのシートにつき1つの表もしくはグラフ、という構成に分解される。そのため、Numbersで作成したレイアウトはExcelでは踏襲されない。編集機能を我慢してPDF形式で書き出す必要がある。
企業でバリバリとExcelを使っているビジネスパーソンにとって、NumbersはExcelの代替ソフトになり得ないかもしれない。しかし共存はすると思う。ちょっとキレイな表やグラフを手早く作りたいというシチュエーションであったり、スモールビジネスの現場だったり、イベントのゲスト管理をしなければならない休日には、Excelとは違う身近さがとても重宝する存在になりうるからだ。
まずはサンプルのテンプレートで、Numbersの世界観を体験してみて欲しい。
写真表現とアニメーション強化の「Keynote」
iWorkアプリケーションの古株であるプレゼンテーションソフト「Keynote '08」。以前のバージョンでもかなり洗練が進んでいたが、今回は洗練に加えて新たな機能を盛り込んできた。
まず、テーマが増えている。これまでのテーマは色が主体だった。背景の色、文字の色などの設定が中心で、スライドそのもののデザインや書式などはどのテーマでもほとんど同じであった。しかし新たに追加されたテーマ群には、あらかじめプリセットの写真が入っている。今までの背景の色以外にプリセットの写真も含めて、テーマの世界観を表現するようになった。
プリセットの写真を挿絵としてそのまま利用しても構わないが、メディアブラウザから写真を見つけて、プリセットの写真の上にドラッグすることで、iPhoto上に保存してある自分で撮影した写真に簡単に差し替えることが出来る。差し替えた写真は、マスクスライダで拡大縮小して、より効果的にトリミングすることも可能。1つのファイルの中で複数のテーマのテンプレートを使い分ければ、より表現力豊かなスライド作成ができる。
写真そのものの編集機能も強化された。特にインスタント・アルファは素晴らしい。
例えば青い空に飛び立つ飛行機の写真があるとする。インスタント・アルファは、マウスのドラッグ操作だけで、青い空の部分を透明にし、飛び立つ飛行機だけを残すことが出来るのだ。これまでPhotoshopでの緻密な作業が必要だったこの作業が、魔法のように、しかもKeynoteのスライドの上で簡単にできる点は特筆すべきである。
これまでPowerPointに遅れを取っていたアニメーションも強化された。これまでスライドの「ビルド」機能で、オブジェクトを順番に表示させたりすることができるイン、アウトの設定が可能だったが、これにアクションが加わった。直線、曲線を引いてオブジェクトを動かす移動や、回転、拡大縮小、不透明などの設定などを行うことが出来る。また、イン、アウトにも、新しい、派手なエフェクトが加わっている。
アニメーション強化も今回のKeynoteのアップデートのポイントだが、写真とアニメーションが関係する新しい機能を紹介する。スマートビルドである。10種類の中からエフェクトを選び、利用する写真を順番に並べるだけで、1枚のスライドの上で複数の写真をめくってみせることが出来る機能だ。これもマウスだけで視覚的に強力なアニメーションを組み立てることが出来る。
このように、Keynote '08では、写真による表現を最大限に生かしたスライド作りへのアフォーダンスを強く感じることが出来る。文字で埋め尽くされたスライドになりがちだったユーザーにとって、Keynote '08によるスライド作りは、視覚効果を劇的に進化させる、違った世界への扉を開いてくれるかも知れない。
さて、新しいKeynoteで最も驚いたのがYouTubeへの書き出し機能である。Keynoteのスライドを、YouTubeに直接ムービーとしてアップロードし、共有することが出来るのだ。アップロードにはアカウント設定からタイトル、タグ付け、コメント書き込みなどが可能な専用のダイアログが用意され、これらを埋めてボタンを押すだけで、KeynoteからYouTube用のエンコードをし、アップロードまでを済ませてくれる。
アニメーションやスライドをめくるタイミングが設定されていれば踏襲されるし、ビデオやサウンドが入っていれば、これらもきちんと再生される。遠隔プレゼンテーション用にパブリッシュする用途にも使えるし、ホビーユースでも、写真のスライドショーやちょっとしたアニメーションなら、Keynoteで片が付く。iMovieとは違う、アニメーション、グラフィックス系のビデオコンテンツ制作が可能になった点で、プレゼンテーションソフトの域をちょっとだけ抜け出したかもしれない。
YouTube以外にも、Keynoteの書き出し機能は充実している。PowerPointをはじめ、PNGやJPEGなどの画像ファイルへの保存(iPhotoにアルバムとして保存できる)、Flash、QuickTime、iPodビデオといったファイル形式に対応するほか、HTMLとPNGもしくはJPEG画像を組み合わせた、HTML形式のスライドショーウェブページの書き出しも出来る。共有することに重きを置いた進化も見逃せないポイントだ。
ページレイアウト、時々、ワープロの「Pages」
僕がiWork '08で最も気に入ったソフトは、Pagesかもしれない。何を隠そう、今回の原稿は、新しいPagesを利用して書いている。
今まで僕はMacで文章を書く際に、ほぼ全てをmi(ミミカキエディット)というテキストエディタで行っていて、Microsoft Wordや以前のバージョンのPagesはほとんど使ったことがなかった。Blogを書く際も、長い文章の場合はmiで書いて、これをコピー&ペーストしていたくらいだ。新しいPagesは、Mac上の軽快なテキストエディタとしてのポジションをも築く可能性がある。
その大きな理由は、Pagesに新しいモードが追加されたことだ。これまでPagesは、簡単にデザインができるページレイアウトソフトだった。KeynoteやiWebのように、写真や文章があらかじめレイアウトされているテンプレートに、文字や写真を置き換えながらページを作成するスタイルしか用意されていなかった。そのため、「普通のワープロ」として使うには不便だった。
しかし今回のアップデートで、今までの編集方法は「レイアウト」モードという名前が付き、これに加えて新たに「ワードプロセッサ」モードが追加された。このワードプロセッサモードとは、名前の通り、普通のワープロとして利用することが出来るモードであり、まさにこのモードを利用して原稿を書いている。
前に挙げたテキストエディタ以上に軽快に動作するシンプルなワープロモードである。新設されたフォーマットバーで、フォントのサイズや書式、段落スタイルなどを選べるようになり、普通のワープロらしさを醸し出す。しかし必要とあらばレイアウトモードと同様に、画像の配置や編集、テキストボックスの配置なども可能だから懐が深い。
ワープロとしての顔を持つようになってから、ドキュメントの協調作業に必要な変更履歴の保存にも対応し、これはMicrosoft Wordと互換性を持つ。そのため、.Docファイルが送られてきて、それを履歴を残しながら修正して、再びWord形式で送り返す、ということがPagesだけで可能となった。
Numbers、KeynoteのMicrosoft Officeとは一線を画す性格とは一変して、Pagesは互換性を重視するモードが充実している。それだけMicrosoft Wordがドキュメントのスタンダードなフォーマットになっている、と言うことを表しているのだろうか。事実、ファイルが開ける、編集できる、という利便性を、Intel Macネイティブの軽快な動作で実現してくれるこのソフトは、重宝することになるだろう。
ちなみに、作成中の文章をレイアウトモード、ワープロモードに変換することは出来ないようだ。ただ、ワープロモードでテキストを作成し、新たなレイアウトモードのファイルにコピーして流し込む、という使い勝手はオススメだ。
iWork + iLifeとともに、表現力を磨こう
iWorkの新しい機能を中心にレビューしてきたが、今回のヴァージョンアップでMicrosoft Officeだけでなく、Adobe Creative Suiteにとってもライバルになりつつあることを感じだ。特に個人やスモールオフィス向けのドキュメント系、デザイン系ソフトウエアの対抗馬として、価格競争力の高さを武器に、驚異となりうる出来映えだ。多少、使い側にも工夫がいるけれども。
例えば、ちょっとしたパンフレットを作りたいとき。マクロは組めないながら、Excelの代わりにNumbersで表計算をしてグラフを作る。Wordの代わりにPagesのワードプロセッサモードで文章を書く。これらをInDesignの代わりにPagesのページレイアウトモードでデザインし、そばにあるプリンタで印刷すれば出来上がる。
ちなみにNumbersで作成したグラフをKeynoteやPagesに貼り付けても、グラフの色や文字のフォント・サイズ変更などが可能になっており、拡大縮小も画像劣化なしで対応してくれる。これはMac上でのドキュメント制作においては、とても大きな意味を持つのだ。
例えばちょっとしたビデオプレゼンテーションを作りたいときは、Keynoteで写真やスライドなどを組み立て、スライドにアフレコを行えば出来上がる。DVDにしたり、さらにBGMを加えたりするなら、MacにプリインストールされているiDVDやGarageBandを利用すれば、よりリッチなコンテンツが出来上がる。
アニメーションや画像ファイル。どこまで出来るかは使う人のセンス次第だが、FlashやAfterEffectsなどの専門ソフトを使わなくてもKeynoteでムービーのオープニングタイトルのアニメーションくらいは作れてしまう。PhotoshopやIllustratorは? これもやはりKeynoteでスライドを作って画像形式で書き出せば、ウェブで使う程度のバナーやタイトル画像は出来上がる。Flashメニューだって行けてしまう。
これだけのポテンシャルがあるソフトウエアを、オフィススイートという顔でリリースするAppleの「使いながらドキュメントのデザインが洗練されていく」というアフォーダンスには脱帽させられる。
たまにはあらかじめ用意されているテンプレートに従ってスライドやドキュメントを作り、そこから技を盗んでみてはどうだろうか? 表現力を刺激してくれるiWork '08、トライしてみる価値は十分すぎるほどある。
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