今日は、洗足学園音楽大学でゲストレクチャーをしてきた。SFCで一緒に研究をしているジャズ評論家・中川ヨウさんのジャズの授業で、ぜひ音楽とITの昨今について、話しに来てくれないか? というお誘いがあったので、仲町台のキャンパスにおじゃましてきた。
ちなみにこの洗足学園音楽大学は溝の口にもキャンパスがあって、はじめ間違えてそちらに行ってしまったのだが、初めて行ったのに初めての景色じゃないな、déjà vu?なんて思ったりしていたのだが、déjà vuなんかじゃなく、ドラマ『のだめカンタービレ』で使われた場所だったから見覚えがあったわけだ。
変わって仲町台のキャンパスも、とてもこじんまりとしながら、赤い煉瓦造りでかわいらしい、そして機能的なキャンパスになっていた。数年後ここから移転してしまうそうで、ちょっと残念だな、と思いつつも、声楽にぴったりな小さめのホールの教室での授業となった。
ここからはスライドをかいつまんでお見せしながら。

これがタイトルスライド。
受講する学生さんたちは皆さん楽器のプレーヤー。生の楽器を演奏できる人たちであるため、電子音楽やそれと結びつくコンピュータはどうもあまり好きでなかったり、なじんでいなかったりしているそうだ。
冒頭に聞いてみると、音楽CDを買うという人が教室内の8割を超えていて、それをケータイではなくiPodで聞くという人もまた8割越え。ケータイは音質が悪いから嫌だ、ライブがコンピュータによって駆逐されることはあるのか? といった事前の質問を裏付けるような印象を受けた。
そこで。

できれば生の楽器のプレーヤーも、道具としてコンピュータやネットを使ってもらえると、もっと面白そうだな、と思って、今日のメッセージはこれにした。そのために、現在の音楽とデジタルの関係を近づけられれば、と。

今回このテーマでスライドを作ろうと思ったとき、意外と僕はカセットテープからMD、CD-R、MP3、iPodまで、試行錯誤をしながらレコーダブルなメディア全部に触れてきたことになる。たぶん今高校生だったとしたら、割とすんなりiPod、いやケータイからのスタートになるのではないか、と思うんだけれども。
1996年から1998年までは完全にMD、1999年から2001年まではCD-R、そして初代iPodに飛びついた2002年から2005年まではiPod、そして現在はMacのiTunesで完全に音楽とビデオを管理し、GarageBandで編集するようになった。MD時代はMDのDivideとCombineで一生懸命メドレーを作っていたわけで。

ところが、現在はiPod touchやケータイで、欲しいと思ったときに音楽を買う、出会える、という生活に変わってしまった。もちろん音楽の入手はジャケ買いやオンラインのレコードショップを利用するが1曲単位の音楽との出会いもiTunes Storeで可能になった、という点は変化だ。
ケータイで音楽は聞かないながら、学生さんたちの半数以上は着うたフルをダウンロードした経験があるというから、突発的に欲しくなった音楽を手に入れる、という行動はキチンと存在しているわけだ。
しかしながら音楽を手に入れる手段としてメインになり得ないネットのダウンロード。なんでデジタルの音声が嫌いなのか、写真を例に説明を試みる。これは僕の小檜山先生へのオマージュでもあるんだけれども。

右はホンモノの蝶を拡大したもの、左はデジタル写真の蝶を拡大したもの。ホンモノの蝶を拡大すると、米粒みたいな鱗粉が顕微鏡によって得られるけれど、デジタル写真の蝶はブロックノイズになってしまう。デジタルとアナログの生の演奏との違いは、ものすごく単純に言えばこういうことになる。
そりゃ右の方がいい、と感覚的に思えるのは(現在までの人たちであれば)当たり前なのかもしれない。しかしながら学生さんたちが「音質がいい」と納得しているCDとして販売されている音楽も、44.1kHz 16bitというクオリティの左の蝶なわけだ。
中川先生によると、ジャズの著名なミュージシャンからは、そろそろCDに変わるメディアが欲しい、という要望が出されるという。つまりこれはCDの音質も、そろそろさらに良くなってもいいのではないか、というメッセージでもある。
ちなみに音質にこだわってデジタルで音楽を保存したければ、可逆圧縮のロスレス形式(Windows MediaやiTunes)で保存しておけば、CDクオリティには戻せるだとか、AAC 256kbpsまでは音質が良くなる(ようだ)といったtipsも付け加えておきましょう。
もちろんCDがダメだ、というわけではなく、これまでになかった高音質を手軽に、しかも丈夫に持ち運べるようになったという点で、これからもまだまだメディアとしての役割を担うはずだ。しかしデジタルで圧縮された音声のメリットは、インターネットに載ることである。

P2Pによるファイル交換など、負の部分もある。
しかしインターネットの回線を使って音楽がやりとりできるメリットは、データ販売という新しい音楽の販売形式が成立したこと(アメリカではiTunesが音楽のトップセラーになったりした)、遠隔地のライブ試聴などライブに行けない人の代替手段が生まれたこと、音声ファイルのやりとりで音楽のプロダクション活動が可能になったこと、ミュージシャンとファンとの新しいコミュニケーション、ユーザー間のコミュニケーションが生まれていることを挙げた。
Last.fmやmixiミュージックといった音楽を核にしたコミュニケーションや、MySpaceなどでのアーティストの直接的なファンとの交流の例などをご紹介。道具としてネットを活用することで、アーティストの様々な可能性を切り開けるかもしれない、という話をした。
じゃあ、使ってみよう、と。

最後の30分は、今日の話のおさらいとして、早速パソコンで音楽に触ってみよう、ということで、デモ。
iTunesによるプレイリスト作成やプレイリスト共有、プレイリスト内検索などから始めた。例えばジャズの場合、同じ曲をいろいろな人が演奏したり、ポップス風にカバーしたり、クラブジャズにしたりというパターンがあって、それを聞き分けるときに検索すると面白い、という話や、2004年7月分から1日1曲ずつ選曲しているプレイリストを見せて、これはiTunes上でなければできなかったことをご紹介。
続いて、GarageBand。基本的に楽器があまりできない僕が、5分で音楽を作ろう、という挑戦的な実演だった。まずはチューリップをソフトウエアキーボードで打ち込み、歌い、リズムをつけてパッケージ化。次にループ音源を使って、聞き映えのする音楽をその場で作ってみたり。
集まった楽器のプレイヤーたる学生さんたちがこれを使ったら、作曲や演奏の練習、ライブパフォーマンスなど、結構武器になるのではないだろうか。それがMacだけですぐできるって、結構敷居が低いと思っているのだ。もちろんWindowsでもいいと思うけれど、今すぐ使えるコンピュータを道具とした音楽のアクティビティがそこにあるなら、ぜひ使って欲しいな、と思ったわけだ。

ということで90分の授業終了。僕もとても楽しんでお話しできました。
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松 村 太 郎
TARO MATSUMURA
UPPERWESTSTUDIO
慶應義塾大学SFC研究所 上席所員(訪問)
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