REVIEW

ノマドライフのその先に - 仕事するのにオフィスはいらない / 佐々木俊尚

by TARO MATSUMURA - 2009.07.22 16:37

Toshinao Sasaki, IT Journalist

 ノマド nomadは、僕が就職せずに仕事をし始める時に掲げた1つのテーマだった。定職に就かず、フリーランスとして働く。そう決めてから、仕事場を持ってみたり、それを辞めてよりモバイルな生活にシフトしたり、いろいろトライしてきたけれど、最近では少し作業環境も落ち着いてきたかな。

 だんだん自分の中でも、働き方について固まりつつあったところで、佐々木俊尚さんの新著『仕事をするのにオフィスはいらない - ノマドワーキングのすすめ』が発売された。ちょうどMac Fanの特集のインタビューで、直近に佐々木さんにお会いしていたこともあって、大先輩のジャーナリストの方から、僕のテーマである「ノマド」というキーワードを説明する本がリリースされていることが、どんなに心強く感じられたことか。

 この本には、ノマドのワークスタイルとその実践で活用できるIT機器、サービスなどが紹介されており、なぜそのような働き方をするのか、なぜそう働くのか、という理由や意味づけにリーチしている。精神性と実用性が良いバランスで収められている点で、ノマドにあまりシンパシーを感じなかった人にとっても読みやすい1冊ではないだろうか。

 日本ではあまりメジャーとは言えないフリーランスは、リセッションの影響で「不慮の起業家」として海外で増加する傾向がある。このときに、自分が出来ることは何か、ということと個人で引き受けてやれる仕事は何か?というすりあわせが必要になってくる。

 自分がやりたいことと出来ることが一致しているとなお良いかもしれないが、ウェブを始めとした環境は「自分が出来ること」と「個人で引き受けてやれる仕事」の幅を広げてくれる。ポジティブにネットを生かすことで、後ろ向きではなく、前向きな起業家としてのフリーランサーになる可能性が開けるのだ。

 佐々木さんの本の中で印象的だったのは、以下の3点。いずれも限られた「時間」を、いかにして最大限に意味のあるものに変えるか。その手法が会社組織の中にいる人と、フリーランスの人とでは全く違っていて、佐々木さんの指摘は後者のための行動指針となる。

・アテンション管理という自己管理(ACDC)
・コラボレーション・ワーキングの手段を得る
・ツールをもコラボレーションさせるクラウド活用

 プレッシャーが少ないからこそだらけてしまうフリーランサーがいかにして自分を律して仕事をこなしていくか。いくらでも寝て過ごせるし、1日YouTubeを見て終わることも出来るし、何の仕事の進展も見ない日だって存在しうるのだ。

 ここで佐々木さんは組織や団体行動ではない個人が自分の価値観や基準を持って仕事に取り組める用にするため、PDCAの前の情報収集プロセスとして「ACDC」(取得・整理・掘り下げ・連携)を提案している。そして、アテンションを集中させる点(C・C)、リラックスさせる点(A・D)を作ってリズム化すればいいのだ。そしてこの連携、コラボレーションする日が移動日であり、ノマディックに動く1日であり、人と会って話す日になる。

 Skype、iPhone、Google Apps、クラウドなどのツールを使い、人同士、自分が使っている機器同士を鮮やかに連携させることによる、指向や作業のフリーアドレス化もまた、時間に対するフリーランスの挑戦でもある。細かいツールの話が詳しく述べられているので、特にサーバサイド側の使い方は参考になるのではないかと思う。

 第6章「ノマドライフスタイルの時代へ」はしびれる。

 僕がノマドのコンセプトに目覚めるきっかけとなった、1970年代フランスでのドゥルーズとガタリが提唱したノマド。そして黒川紀章やジャック・アタリが描いた移動と連結の未来。ノマドはまだまだ物理的に移動しながら仕事をしていくスタイルが想定されていてわかりやすい一方で、「定住→遊牧→再定住」というプロセスの途中にいるようにも思えるのだ。

 佐々木さんの本を通じて、現在存在可能なデジタルなノマド、ネットなノマドーーデジタル機器、ネットを使いこなして、移動しながらもつながり続ける、協調し続ける環境を手にする生き方が説明された。僕はその上で、ノマドのその先の「再定住」の時代がどうなるのか、この本を読み終わって強烈に興味が沸いてきた。

 とにかく、ノマド道をより究める所から始めるべきだし、ノマディックな考え方、働き方を採用する仲間が増えていくことは、とても心強いし、また社会変革をもたらすのではないか、と考えている(以前紹介した「所有しない社会」や「一人でやらない」、「ソーシャル・ビーング」のような話です)。ただ、動き続けることがロスだと感じ始めた時、我々がどんな生活様式を採っているのか、探し始めるにはいいタイミングだと思うのだ。

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