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HDDレコーダーによるCM損失と、テレビが“詳細メディア化”する可能性
by TARO MATSUMURA - 2005.06.01 02:04
我が家では2003年9月からPanasonicのHDDレコーダーDigaを使っている。160GBのハードディスクにシングルチューナーながら、真剣に見ないけれど見ておきたい番組をとりあえず録画したり、21:30に帰宅して21:00に始まったドラマを最初から見たい、という時も時間を無駄にせずに見始めることが出来る。まあテレビを見る時間が無駄じゃないか?と言われるとまた別なんだけれども、まあテレビっ子としての娯楽の1つです。
今のところ無料で見られている理由は、NHK以外はCMなのだが、そのCMを基本的にはスキップしてみている。Digaのリモコンには「自動CM早送り」と「マニュアルスキップ」というボタンが付いている。前者は、番組本編がモノラル放送の場合、ステレオ放送に切り替わるCMの部分を検出して早送りしてくれる機能。後者は1回押すと30秒早送りしてくれる。早送り、と書いてあるけれど、HDDなのでテープのような早送りではなく、パット画面が切り替わるのだ。ビデオテープ時代と違って、間にどんなCMが挟み込まれているかは知るよしもない。
僕の生活の中でテレビを見ている時間は伸びている。HDDレコーダーのおかげで見たい番組を逃さず見ることが出来ているためだ。だからといってCMをたくさん見ているかというと、そんなことはない。早送りではなくスキップなので。今日の記事で野村総合研究所が調査レポートを出しており、CM効果の損失が540億円に上っていると指摘している。ちなみに以下の記事での2005年度のHDDレコーダー世帯普及率は15.2%、2009年までに44.3%まで伸びると予測している。
・CNET Japan: テレビCMの価値が奈落の底--ネットとHDDレコーダーで加速 - また、NRIでは「平均CMスキップ率64.3%」と、HDDに録画した番組の視聴割合である「平均録画消費率34.2%」、2004年から2005年の「HDR普及率」(グラフ1)を、公表されている企業の年間テレビ広告費(電通の「日本の広告費」2004年の数値)に掛け合わせると、2005年のテレビCM市場の約2.6%、金額にして約540億円の価値が失われると試算した。NRIは、「HDRの世帯普及率は今後も伸び続けることから、今後さらにテレビCMの価値は損なわれていく恐れがある」としている。
単純計算で540億円としているが、効果を考えるとまた違ってくるかもしれない。野村総研では、テレビ番組や映画・ゲームなどの中に広告主の商品やブランドロゴを意図的に露出させる広告手法であるプロダクトプレイスメントによるプロモーション活動、インターネットやフリーペーパー等新しい媒体への乗り換え、ポイントやマイレージ付与による消費者への直接還元策を行うという3点を改善案として提示している。本当に層だろうか。
僕はHDDレコーダーの発展と共に、テレビのビジネスが新たなチャンスを迎えようとしているのではないか、と考えている。その考えにたどり着くきっかけは、5月22日にEmerging Technology研究会でテレビコンテンツについて議論を交わした時だった。このイントロダクションで講演をして下さった早稲田大学の亀山先生によると、HDDレコーダーは今後重要なポジションを取ることになるとしている。
亀山先生の簡単な試算でもその一端を見ることが出来る。まずHDDレコーダーのHDDの容量は飛躍的に向上していくという。今は数百GBという単位が一般的だが、すぐに数TBという単位で扱われるようになる。すぐというのは、来年、再来年という話だ。DVD画質のMPEG-2 6Mbpsで、10局24時間1ヶ月を録画するのに19TBが必要になるが、19TBのHDDは2009年に$300ほどで手に入れることが出来るようになると予測していた。2009年というのは野村総研の予測で、HDDレコーダーが日本で44.3%の普及をしているであろう年である。
また映像の圧縮技術の革新が進む。H264/AVC選んだ番組を録画するなら、DVD(MPEG-2 約6Mbps)と同等の画質を、H264/AVCなら1/6の1Mbpsで得ることが出来る。すると1ヶ月のテレビを全て録画するのに必要な容量は19TBではなく3TBで済むようになる。2006年にも3TBのHDDが$300で手に入ると言う亀山先生の予測を加えると、HDDレコーダーが現在とは全く別のモノに変化する瞬間が2006年前後にやってくるという事が言えるのではないか。
つまり今僕が使っているHDDレコーダーは160GBで、DVDの半分程の画質に画質を落としても100時間ちょっとしか録画出来なず、時々番組を消したりDVD-Rに焼いたりすることを余儀なくされている。しかしそんなことを言わず、10チャンネル24時間という、テレビを監視するような体制で録画をするHDDレコーダーが来年にも登場してくるということだ。
こうなると、現在のように録画する番組を選ぶのではなく、見る番組を手元のHDDレコーダーから選ぶと言うスタイルに変わる。見ない番組はバラエティであろうがニュースであろうがミニ番組であろうが、全てHDDレコーダーに一定期間は保管されていて、必要なときにすぐに呼び出すことが出来るようになるわけだ。そこでテレビメディアの逆襲の可能性がある、と僕は思うのである。
ブロードバンドが普及したとき、テレビを見ながらインターネットのサイトを調べるというスタイルが良く報じられていた。テレビで流れたお店の詳細をインターネットのウェブサイトで調べるだとか、今ドラマで使われている音楽を調べてそのアーティストのCDをオーダーするだとか。そう言ったメディアの使い方について「テレビを紹介メディア、インターネットを詳細メディア」と呼ぶようにしている。
テレビで紹介されたモノをネットで調べるという流れが出来たから、ネットのバナー広告が潤うようになったり、ネットのECサイトへ人が流れてくるようになったりしている。テレビはCMの広告収入があり、ネットでは物を売って収益を上げる、という構図が出来てきた。しかしそのテレビCMが“奈落の底”などと言われ、紹介メディアである音声・映像コンテンツもインターネットでまかなおうという動きが、ライブドア・フジテレビ問題を始めとした昨今の状況だ。
ここで次世代のHDDレコーダーが登場したとき、もしかしたら人の流れをテレビの中に押し込めておくことが可能になるかもしれない、と思ったのだ。リアルタイムなテレビを見てネットで調べるという流れから、テレビを見てHDDレコーダーの中を調べれば事が足りるようになるのだとしたら、HDDレコーダーのリモコンを話さずにテレビからも目を離さないで、知りたいという欲求が満たされることになる。それが、紹介メディアであるテレビの詳細メディア化である。
例えば新しい発泡酒について調べようと思ったときに、HDDレコーダーには特集しているテレビ番組も、発泡酒を宣伝しているコマーシャルも、ドラマの中で発泡酒を飲んでいる役者の様子も全て記録されている。これを何らかの方法でインデックス化し、そのデータを元にしてHDDレコーダー内を検索することが出来れば、ネットに頼ることなく発泡酒の情報を得ることが出来る。役者を調べたければその役者が出てくるバラエティからドラマからCMから、調べてその映像を見ることが出来る。
ここでおそらく、再びCM効果の空洞化が起きるだとか、編集権やアクセス権の問題をどうするのか、といった既存の枠組みとの不整合性が出てくることになるが、それを解決してでも、HDDレコーダーの変質を推し進めた方がテレビにとっては得策なのではないか、と僕は思っている。
実際どうなるだろう。一応僕の予想というかチェックリストとしてここに書いておこうと思う。答えが出るのは早ければ1年後と言うことになるだろうか。