COLUMN
浅草で寄席遊び
by TARO MATSUMURA - 2004.09.06 23:40
雷門で待ち合わせましょう。落語を初めて楽しもうという方をご案内する時に、私は浅草にある寄席、浅草演芸ホールへしばしばお連れすることがあります。今にのこる江戸の情緒を味わいつつ、噺でちょこちょこっと笑っていただけたら落語の魅力も伝わりやすいのかな、という私なりの想いがございまして。そんなトーキョー人のふるさと、浅草の魅力を振り返ってみようと思います。
浅草は、昔から演芸や喜劇など大衆芸能が盛んな街で、演芸のメッカなどといわれることもございます。有名どころでは、寅さんの渥美清や萩本欽一、ビートたけしなど、数多くの役者やコメディアンを世に送り出した街なのです。観光客でも親しみやすく、演芸への門も開かれている。そんなふところの広さは、現代に残る江戸っ子のようだな街だな、という印象さえ与えます。
雷門を右手に見ながら雷通り沿いに歩みを進ませまして、つきあたりの国際通りの一本手前、すしや通りというところを右曲がりまって、3分ほど行っていだきます。すると左手に大きなのぼりが見えて参ります。独特の色合いで噺家の名前の書いてあります。その趣のある建物といい、はっぴをきた呼び子さんの威勢良い声かけといい、ついふらふらっと入ってしまいたくなる、こちらが浅草演芸ホールでございます。
一日に約40組もの芸人が出演いたします。落語、漫才、マジック、曲芸などさまざまな芸で迎えてくれるのです。観光地という場所柄もあり、地方から観光ツアーの団体のお客様なども多く、寄席初心者にもうってつけでございます。子供が『寿限無』を聞いて高い声で笑い、そそっかしい人の噺『粗忽の釘』で若者が元気よく笑い飛ばす、お年寄りが人情味あふれる噺『紺屋高尾』にしんみりとする。皆がそれぞれ楽しめる芸がそこにはある。ここに大衆芸能であるといわれる所以があるのではないでしょうか。
浅草で寄席通いをする楽しみの一つに、食がございます。この土地には老舗の名店が数多くございます。雰囲気のいい蕎麦屋、並木薮蕎麦。明治創業の名店、大黒家天麩羅。本格的な和の味、駒形どぜう本店。近江牛を楽しむ牛鍋、米久本店。ちょっとした居酒屋さんもにぎわっております。ひと笑いした後においしい和食に舌鼓を打ってはいかがでしょうか。
さて、落語にも浅草が舞台になったものが多くございます。そのなかの一つ、『粗忽長屋(そこつながや)』のあらすじをご紹介いたしましょう。<参照:花緑の落語江戸ものがたり(近代映画社)>
浅草寺の雷門で行き倒れがあった。黒山の人だかりの中で、「これは、自分の親友の熊だ」という男がいる。あわて者の八五郎だ。「今朝、会った時に、どうりでぼんやりしてやがった」と言う。これを聞いたまわりの人たちが、「この人は夕べからここへ倒れてるんだから、人違いだ」などとなだめるのも聞かず、どうしても本人に引き取らせると、八五郎は長屋へとって返した。もちろん、熊五郎はいきているわけで、話が呑みこめない。「俺は死んだ気がしない・・・」という熊五郎を、強引にその場につれてきて、「お前は死んだんだ」と言い聞かせ、死骸を引き取らせる。さて、熊五郎は・・・。「抱かれているのは確かに俺だが、抱いている俺は誰だろう?」
このように浅草の魅力は語り尽くすことができないというわけでございます。これからみなで共有し、育んでいけたならどんなによいことでしょうか。笑いの視点からその魅力を少々お伝えいたしました。江戸人、トーキョー人として心慕わせる街、浅草がここにはあるのです。
Author
松村太郎 Taro Matsumura
ジャーナリスト・企画・選曲。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。ビジネスブレイクスルー大学講師。テクノロジーとライフスタイルの関係を探求。モバイル、ソーシャルラーニング、サステイナビリティ、ノマドがテーマ。近著に『タブレット革命』『スマートフォン新時代』など。 read more & contact
Trackback
- URL:
http://upwest.org/mt/mt-tb.cgi/10360 - TOKYOTODAY